夕暮れの地平線まで広がる大規模太陽光発電所で軽量パネルを設置する作業員たち
REPORT 07

海外競合と中国勢 — 世界の開発競争の構図

ペロブスカイト太陽電池は日本発の技術ですが、その果実をめぐる競争は完全にグローバル化しています。GW級の量産計画を次々と打ち出す中国勢、タンデム型で先行する欧州勢、効率記録を競う韓国・米国勢。本レポートでは世界の競争の構図を整理し、シリコンの敗北を繰り返さないための日本の勝ち筋を考察します。

世界の開発競争の構図

ペロブスカイト太陽電池の研究開発は、日本、中国、欧州、米国、韓国の5極を中心に展開されています。学術論文や特許の出願数では中国が量的に圧倒し、変換効率の世界記録は各国の研究機関が数カ月単位で塗り替え合う状況が続いています。実験室レベルの単接合セルで26%超、タンデム型では34.6%以上という記録が報告されており、技術の伸びしろを見せつけています。

各国政府の関与の深さも、この分野の競争を特徴づけています。日本のGX政策、中国の産業補助金と地方政府の誘致競争、欧州の域内製造回帰政策、米国のエネルギー安全保障投資。ペロブスカイト太陽電池は、単なる企業間競争ではなく、エネルギー転換の主導権をめぐる国家間競争の様相を帯びており、政策の変化が競争環境を一夜にして変え得ることを、市場参加者は織り込んでおく必要があります。

競争の焦点は、既に「誰が高い効率を出すか」から「誰が最初に採算の取れる量産を実現するか」へと移りました。量産技術、耐久性の実証、サプライチェーンの構築、そして初期需要の確保。この総合力の勝負において、各国・各企業の戦略の違いが鮮明になりつつあります。

知的財産の面では、基本特許の多くが発明初期に日本と欧州で押さえられている一方、量産プロセスや周辺技術の特許出願では中国勢の伸びが著しいという構図です。また、性能測定方法や信頼性試験の国際標準化(IEC規格など)をめぐる議論も本格化しており、規格づくりを主導できるかどうかが、自国製品の市場アクセスを左右する「見えない競争」として進行しています。

競争の時間軸を整理すると、2026〜2028年が「フィルム型の初期市場を誰が取るか」、2028〜2032年が「タンデム型の量産を誰が制すか」、それ以降が「価格と規模の総力戦」という三つの局面に分けられます。現在は第一局面であり、日本勢が最も優位に立てる時期です。この間に確立した実績と標準が、後の局面での交渉力の土台になるため、目先の市場規模以上に「今」の動きが将来を規定します。

中国勢のGW級量産計画 — 「シリコンの再来」への警戒

最も警戒すべき存在が中国勢です。中国では大正微納科技(DaZheng)、極電光能(UtmoLight)、協鑫光電(GCL Perovskite)といったスタートアップ企業群が、相次いでGW級の量産工場計画を発表しています。既に100MW級のパイロットラインを稼働させる企業も複数あり、量産規模の計画値では日本勢を上回るスピード感を見せています。

中国勢の強みは、シリコン太陽電池で確立した圧倒的な製造エコシステムです。装置、部材、人材、そして巨大な国内市場と地方政府の投資支援。これらを転用してペロブスカイトでも低コスト量産を一気に立ち上げる戦略であり、かつて日本のシリコン太陽電池産業が価格競争の中でシェアを失った「シリコンの再来」を懸念する声は業界内に根強くあります。

ただし、中国勢の主戦場は当面、ガラス基板型の大型モジュールによる発電所用途が中心です。日本勢が注力する軽量フィルム型太陽電池はロールtoロール製造や封止の技術難度が高く、この領域では日本に一日の長があります。フィルム型の技術優位をどれだけの期間維持できるかが、競争の帰趨を左右します。

中国勢の動きを過小評価も過大評価もしないことが重要です。発表される量産計画のすべてが実現するわけではなく、ペロブスカイトの量産は資金力だけで解決できるものではありません。他方、シリコンで実証されたように、中国の製造業は一度技術が確立すると驚異的な速度でコストを下げてきます。日本勢にとっての現実的な時間軸は、「中国勢がフィルム型の量産技術を確立するまでの数年間」であり、この期間に実績・顧客・規格の三つを押さえられるかが勝負どころです。

また、中国国内の市場環境にも目を配る必要があります。中国ではシリコンパネルの供給過剰と価格下落が深刻化しており、太陽電池メーカーの淘汰・再編が進んでいます。この過当競争がペロブスカイトへの投資余力を削ぐ可能性がある一方、生き残りをかけた次世代技術への傾斜を加速させる可能性もあります。中国勢の動向は単線的に予測できないからこそ、定点観測と複数シナリオでの備えが欠かせません。

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欧州・米国・韓国の動向

欧州の代表格は英国のOxford PV(オックスフォードPV)です。オックスフォード大学発の同社は、ペロブスカイト/シリコン・タンデム型セルの商業生産で世界の先頭を走り、ドイツの工場から発電事業用の高効率タンデムモジュールの出荷を開始しています。欧州は研究水準の高さに加え、域内製造を促す政策(ネット・ゼロ産業法など)を背景に、高効率タンデムでの巻き返しを図っています。

米国は、国立再生可能エネルギー研究所(NREL)を中心とした基礎研究力と、スタートアップへの旺盛なベンチャー投資が強みです。韓国では、大学・研究機関が変換効率の世界記録を何度も更新してきたほか、AIのリバースエンジニアリング技術を活用して製造コストを半減させ、気候への影響を80%以上低減可能とする製造プロセスの研究成果も報告されています。ハンファQセルズなど既存太陽電池大手もタンデム型の事業化を進めており、技術・製造の両面で有力なプレイヤーです。

欧米の政策環境も競争条件を左右します。欧州は域内製造を重視する産業政策のもとで太陽電池サプライチェーンの再構築を進めており、米国もエネルギー安全保障の観点から国内製造への優遇を強めています。世界的に「再エネ設備は安ければどこ製でもよい」という時代から、「自国・同盟国製であることに価値がある」時代へと移行しつつあり、この地政学的な変化は、品質と信頼性で勝負する日本勢にとって追い風となる可能性があります。

図表1|国・地域別の競争ポジション比較
国・地域主なプレイヤー強み戦略の重心
日本積水化学、東芝、パナソニック、エネコートフィルム型技術、封止・材料技術、ヨウ素資源軽量フィルム型で新市場を先行開拓
中国GCL、UtmoLight、DaZhengほか製造エコシステム、投資規模とスピードガラス型大型モジュールの低コスト量産
欧州Oxford PVほかタンデム型の商業化先行、政策支援高効率タンデムで発電事業市場を狙う
米国NREL、スタートアップ群基礎研究力、ベンチャー投資次世代技術の芽を広く育成
韓国研究機関、ハンファQセルズほか効率世界記録、AI活用の製造研究タンデム型の早期事業化

日本の勝ち筋 — 資源・技術・戦わない市場

では、日本はどう戦うべきなのでしょうか。業界で共有されつつある勝ち筋は三つあります。第一に、ヨウ素という資源の優位です。ペロブスカイトの主原料であるヨウ素は日本が世界有数の産出国であり、原料からセルまでを国内で完結できる「国産エネルギー」のサプライチェーンは、経済安全保障が重視される時代の強力な差別化要因です。

第二に、フィルム型太陽電池という「戦わない市場」の選択です。中国勢が得意とする大型ガラスパネルの価格競争を正面から受けるのではなく、耐荷重の低い屋根や壁面といったシリコンが入り込めない市場を、技術難度の高いフィルム型で先行して押さえる戦略です。第三に、製造技術のブラックボックス化です。かつてのシリコンでは技術流出が競争力喪失の一因となったため、封止材やプロセス条件などの中核技術を秘匿しつつ、装置・部材を含めた「チームジャパン」で戦う体制づくりが進んでいます。三菱総合研究所などが提言する企業連携型の技術研究組合構想も、その一環です。

人材の確保も見逃せない論点です。ペロブスカイト太陽電池の産業化には、材料化学、薄膜プロセス、デバイス評価、施工技術まで幅広い専門人材が必要となります。大学の研究室から量産工場までの人材パイプラインを太くできるか、そして海外への頭脳流出を防げるかは、技術のブラックボックス化と同じくらい重要な競争基盤です。発明国の強みは、突き詰めれば「人」に宿るからです。

最後に、国際競争を「勝ち負け」だけで捉えない視点も必要です。ペロブスカイト太陽電池の世界市場が2040年に約4兆円へ拡大するなら、複数の国・企業が共存できる規模の市場が生まれることになります。日本勢にとっての現実的な成功とは、世界シェアの独占ではなく、フィルム型・建材型など高付加価値領域で確固たる地位を築き、材料・装置を含めたサプライチェーンで世界市場から収益を上げ続けることです。その意味で、海外勢との提携・分業も含めた柔軟な国際戦略が、これからの日本企業には求められています。

国際競争は2027年以降の量産立ち上げ期に最初の山場を迎えます。市場全体の見通しは市場規模と予測を、国内の量産体制は国内メーカー動向をあわせてご覧ください。