太陽電池市場の成長グラフを大型スクリーンで分析する会議室の様子
REPORT 02

ペロブスカイト太陽電池の市場規模と予測

ペロブスカイト太陽電池市場は、本格的な商業化を目前に控えた黎明期にあります。市場規模の絶対値はまだ小さいものの、複数の調査機関が年平均成長率30%超という急成長を予測しており、次世代太陽電池への投資・参入判断の重要な局面が訪れています。本レポートでは、世界と日本の市場規模データを整理し、成長のドライバーとリスクを検証します。

世界市場の現在地

ペロブスカイト太陽電池の世界市場は、2025年時点で2億6,720万米ドル(約400億円)程度と推定されています。別の調査では2025年の市場規模を2億9,580万米ドルとする推計もあり、いずれにしても太陽光発電市場全体から見ればごく小さな市場です。しかし重要なのは規模ではなく局面です。2025年から2026年にかけて、世界各国で実証試験から初期商用化への移行が本格化しており、市場は「研究開発の時代」から「事業の時代」への転換点を迎えています。

日本では積水化学工業が2027年の100MW級量産ライン稼働を計画し、中国ではスタートアップ企業がGW級の量産計画を相次いで発表しています。供給能力が立ち上がる2027年以降、市場規模の数字は一気に切り上がっていくと見込まれます。

黎明期市場の特徴として、現在の売上の多くは実証プロジェクトや政府・自治体の先行導入案件で構成されており、量産品の市場価格はまだ形成されていません。この段階の市場規模の数字は「どれだけ売れたか」というより「どれだけ実装が始まったか」を測る指標として読むべきです。逆に言えば、価格・チャネル・保証といった商習慣がこれから作られる市場であり、参入企業がルール形成に関与できる余地が大きい局面とも言えます。

市場の立ち上がりを測るもう一つの物差しが、導入容量(kW・MW)ベースの統計です。金額ベースの市場規模は製品価格の低下によって伸びが抑えられる一方、導入容量は普及の実態をより直接的に映します。政府が掲げる政府施設への導入目標(2035年5〜7万kW、2040年10万kW以上)や、次世代型太陽電池戦略の2030年GW級という数字は、いずれも容量ベースの指標です。事業計画を立てる際は、金額と容量の両方の物差しで市場を捉えることが欠かせません。

2035年に向けた成長予測

調査機関の予測を並べると、ペロブスカイト太陽電池市場の成長期待の大きさが際立ちます。ある調査では、世界市場は2025年の2億6,720万米ドルから2035年には41億8,269万米ドルへ拡大し、2026年から2035年の年平均成長率(CAGR)は31.66%に達すると予測されています。さらに強気の調査では、2032年に69億5,820万米ドル、CAGR57.0%という驚異的な数字も示されています。

図表1|世界市場規模の予測推移(単位: 億米ドル)
2025年
2.7
2028年
約6
2031年
約16
2035年
41.8

出典: 調査会社予測(CAGR31.66%)をもとに当サイト作成。中間年は成長率からの推計値。

成長率に幅があるのは、量産立ち上げの時期と耐久性課題の解決スピードに不確実性があるためです。ただし、方向性については各機関の見方は一致しています。すなわち、2020年代後半に市場が立ち上がり、2030年代に既存太陽光市場の一部を置き換えながら急拡大する、というシナリオです。

この成長予測を裏付けるのが、世界で相次ぐ設備投資です。日本の積水化学の900億円投資に加え、中国のスタートアップ群はGW級工場の建設計画を公表しており、欧州でもタンデム型の商業生産ラインが動き始めています。市場予測の数字は需要側の期待だけでなく、供給側の投資コミットメントによっても支えられており、「作る側」が先に走り出しているのが現在のペロブスカイト太陽電池市場の実相です。

成長率の予測に大きな幅がある点についても補足します。CAGR31.66%と57.0%という二つの予測の差は、主にタンデム型の商業化時期と、発電事業用市場への浸透スピードの見立ての違いによるものです。楽観シナリオでは2030年代前半にタンデム型が発電所用途で価格競争力を持ち、既存市場の置き換えが一気に進みます。慎重シナリオでは、耐久性の実証に時間を要し、当面はフィルム型のニッチ市場が中心になります。どちらに転ぶかを分ける最大の変数が「20年寿命の実証」であることは、業界関係者の共通認識です。

[PR]

富士経済予測と日本市場

国内調査機関の予測も見てみましょう。富士経済は、ペロブスカイト太陽電池の世界市場が2025年の1,476億円から2040年には3兆9,480億円に達すると予測しています。実に15年で約27倍という成長シナリオであり、次世代太陽電池が太陽光発電の主役級のセグメントに育つことを意味します。

一方、日本市場の立ち上がりは世界に比べて緩やかと見られています。日本市場は2025年度の8,000万円から2040年度に342億円規模への成長が予測されており、当初は政府・自治体の公共調達や実証的な導入が中心になる見通しです。ただしこの数字は太陽電池本体の市場であり、施工・部材・保守などの周辺市場を含めた経済効果はより大きくなります。

特に注目されるのが建材一体型太陽電池(BIPV)の市場です。日本国内のBIPV市場は年間約200億円規模とされ、ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)義務化の動きを背景に年率20%以上の成長が見込まれています。ある海外調査では、日本のBIPV市場が2034年までに64億9,027万米ドルに達する可能性も示唆されており、ペロブスカイト技術はその中核を担うと期待されています。詳細は建材一体型(BIPV)応用のレポートで解説しています。

また、日本市場の数字を読む際は、太陽電池セル・モジュール本体の市場に加えて、周辺市場の広がりを視野に入れる必要があります。設置工事・電気工事、接続箱やパワーコンディショナなどの周辺機器、稼働後の保守・モニタリング、さらには使用済みモジュールの回収・リサイクルまで、発電設備のライフサイクル全体に事業機会が分布します。特にフィルム型太陽電池は従来と施工方法が異なるため、施工技術者の育成・認定といった人材ビジネスも新たに立ち上がると見られます。

国内市場のもう一つの注目点は、電力会社や商社、リース会社による新しい事業モデルの登場です。軽量フィルム型太陽電池は既存建物への後付けが容易なため、初期費用を事業者が負担して屋根を借りて発電する第三者所有モデル(PPAモデル)との相性が良いとされます。設備を「売る」ビジネスから、発電サービスを「提供する」ビジネスへ。ペロブスカイトの普及は、太陽光発電の事業モデル自体の多様化を伴って進むと予想されます。

セグメント別の展望

市場の中身を製品タイプ別に見ると、「フィルム型(単接合型)」と「タンデム型」の二極化が予測されています。

図表2|製品タイプ別の市場展望
セグメント主な用途市場の立ち上がり展望
フィルム型(単接合)耐荷重の低い屋根、壁面、IoT・防災用途2026〜2028年に商用化本格化シリコンの空白地帯を開拓し先行普及
ガラス型・建材一体型ビル外装、窓、ZEB対応建材2027年以降、建築サイクルに連動ZEB義務化を追い風に安定成長
タンデム型発電事業用、住宅用の高効率パネル2030年前後から本格化2040年に市場の約60%を占めるとの予測

短期はフィルム型が「軽さ」で新市場を切り拓き、中長期はタンデム型が「効率」で既存市場を置き換える。この二段ロケット構造が、ペロブスカイト太陽電池市場の成長ストーリーの骨格です。

用途別に見ると、電力用途(屋根・壁面・発電所)が金額ベースの中心を占める一方、数量ベースではIoTセンサー向けの室内光発電や防災用ポータブル電源といった民生・産業機器用途が先行して立ち上がる可能性があります。これらの用途は単価が小さいものの、耐久性の要求条件が屋外より緩く、量産初期の製品でも採算に乗せやすいためです。市場データを追う際は、電力用途と非電力用途を分けて見ることで、産業の実態をより正確に把握できます。

成長ドライバーとリスク要因

市場拡大を後押しする要因としては、第一に政策支援が挙げられます。日本のGX(グリーントランスフォーメーション)投資、グリーンイノベーション基金、2026年6月に策定された政府施設への導入目標など、初期需要を国が創出する構図が整いつつあります。第二に、脱炭素経営の広がりです。RE100やCDP対応を迫られる企業にとって、自社の工場・倉庫の屋根で発電できる軽量太陽電池は、追加用地なしで再エネ調達を増やせる現実的な選択肢となります。第三に、エネルギー安全保障の観点から国産エネルギーの拡大が国家的課題となっていることです。

一方のリスク要因も明確です。最大のリスクは耐久性で、現状の寿命は10年程度とされ、シリコン並みの20年以上を実証できるかが普及の分水嶺となります。次にコストです。量産初期の価格はシリコンより高くなる見込みで、補助金への依存度が高い期間が続きます。さらに、中国勢の低価格攻勢により、シリコンで起きた「発明国が量産で敗れる」構図が再現されるリスクも無視できません。これらの課題は耐久性と量産化の課題および海外競合と中国勢で詳しく検証します。

総じて、ペロブスカイト太陽電池市場は「高成長がほぼ確実視される一方、その果実を誰が獲るかは未確定」という段階にあります。市場データの継続的なモニタリングが、この業界に関わるすべてのビジネスユニットに求められています。