衛星に給電したペロブスカイト太陽電池と宇宙電源の未来
ニュースの概要
JAXAなどの研究チームが、ペロブスカイト太陽電池を使って衛星本体へ電力を供給することに、世界で初めて成功したと報じられた。これまで宇宙での実証は、電池の発電を確かめる実験が中心だった。今回は発電した電気で衛星の機器そのものを動かした点に意味がある。薄くて軽く、曲げられる電池が、宇宙の厳しい環境で実用の電源として働くことを示した形だ。衛星の小型化や打ち上げ費用の低減につながる可能性があり、日本が強みを持つ素材分野の新しい出口としても期待される。
引用元: JAXAなど、ペロブスカイト太陽電池から衛星本体への給電に世界初成功|宇宙用電源の実用化へ前進(SPACE CONNECT)
分析・見解
発電の確認から本番の給電へ、一段上がった実証
これまでの宇宙実証は、電池を機体に載せて「電気が出るか」を測るものが多かった。測定用の小さな回路につなぐだけなら、電圧が多少ぶれても問題にならない。
今回は衛星の電源系に組み込み、本体の機器を動かした。衛星の電源は、日向と日陰で入力が大きく変わる。そのうえ、バッテリーの充電と機器への配電を同時にこなす必要がある。この環境で安定して働いたことが、実験室の成果と実用品の間にある壁を一つ越えた証拠になる。
軽さと曲がる性質が、衛星の設計を変える
いまの衛星は、シリコンや化合物半導体の太陽電池をガラスや硬い基板に載せている。ペロブスカイトは厚さが髪の毛より薄いフィルム状にでき、重さは従来の数分の一から十分の一ほどになりうる。
打ち上げ費用は、ざっくり1キログラムあたり数十万円から百万円規模といわれる。電源部が軽くなれば、その分を観測機器や燃料に回せる。さらに巻き取って収納できるため、大きなパネルを小さな箱に畳んで運び、軌道上で広げる設計もしやすくなる。
小型衛星を数百機そろえる通信網では、1機あたりの軽量化が全体の費用を左右する。ここに効く技術だ。
宇宙の放射線と温度変化という本当の関門
課題は耐久性である。宇宙では、強い放射線と、マイナス100度台からプラス100度台まで振れる温度変化にさらされる。地上では湿気や酸素に弱いことが弱点とされてきたが、真空の宇宙では水分の問題がなくなる。この点は、むしろ宇宙のほうが条件がよい面だ。
一方で、放射線による劣化は別の問題として残る。ただ、ペロブスカイトは放射線を受けても、傷が自然に回復する傾向があるという研究報告がある。もしこの性質が長期の軌道で確かめられれば、寿命の面でも既存品を上回る可能性がある。
今回の成功は短期の実証であり、数年単位の寿命はこれから示す必要がある。
地上用途の信頼性づくりに宇宙が果たす役割
独自の見方を一つ挙げたい。宇宙実証の価値は、宇宙市場の大きさだけでは測れない。宇宙は、故障が許されず検証データも厳しく取られる場だ。ここで通用した実績は、地上の建物や車載向けに売り込むときの強い信頼材料になる。
日本は原料のヨウ素の産出量で世界有数であり、素材から製造まで国内で組める。宇宙向けの高付加価値品で技術を磨き、量産が必要な地上向けで回収する。この二段構えが、中国勢との競争で効く戦い方になりうる。
ビジネスへの影響
宇宙事業に関わる企業が今から見ておくべき点
衛星メーカーや部品商社にとっては、電源の選択肢が増える局面だ。採用判断の軸は、発電効率よりも1キログラムあたりの発電量になる。この数字で既存品と比べる習慣をつけておくとよい。
また、衛星の設計は電源に合わせて構造が変わる。巻き取り式や折り畳み式の電池を前提にすると、機体の形そのものが変わる。設計に着手する前に、電池メーカーと早い段階で話をしておく価値がある。
地上向けの事業者にとっての波及効果
建材一体型の太陽光発電や、車載、ドローン、非常用電源などを手がける企業にも関係する。宇宙での実績は、採用側の稟議を通すときの根拠になる。営業資料に宇宙実証の結果を載せられるかどうかで、説得力が変わるはずだ。
ただし、宇宙用と地上用では求められる条件が違う。宇宙は放射線と温度差、地上は湿気と紫外線と価格が主な関門になる。宇宙の成功をそのまま地上の寿命保証に読み替えない冷静さも必要だ。
投資や提携を判断するときの現実的な見方
実証の成功は、量産と収益の保証ではない。判断の材料としては、軌道上での稼働期間、劣化率、製造歩留まり(=良品が取れる割合)の三つを確認したい。
短期の話題性で動くより、長期データが出る時期に合わせて段階的に関与を深めるのが堅実だ。