リコーが東北でペロブスカイト量産へ、印刷技術が変える太陽電池
ニュースの概要
リコーは10月27日、インクジェット印刷技術を使ったペロブスカイト太陽電池の量産に向けて、生産体制づくりを始めると発表した。拠点は子会社リコーインダストリーの東北事業所(宮城県柴田町)の敷地内に設ける。2030年までに年間数百MW(メガワット)規模の生産能力をめざし、将来はGW(ギガワット)級への拡大も視野に入れる。この計画は、経済産業省のGXサプライチェーン構築支援事業に採択された。プリンターやコピー機で培った「液体を精密に塗る」技術を、発電する薄い膜の製造に応用する点が特徴である。複合機メーカーが発電デバイスの量産に踏み出す動きは、国内の太陽電池産業の構図にも影響しそうだ。
引用元: リコー、ペロブスカイト太陽電池を東北で量産へ(Ricoh / マイナビニュース)
分析・見解
複合機の塗布技術が発電フィルムの製造に生きる
ペロブスカイト太陽電池は、特殊な結晶構造をもつ材料を薄い膜にして発電させる電池である。シリコン製のように重いガラス板を必要とせず、薄く軽く曲げられる。この膜は液体の材料を塗って作れる点が強みだ。
ここで効いてくるのがリコーのインクジェット技術である。インクジェットは、ごく小さな液滴を狙った位置に必要な量だけ置く技術だ。紙に文字を刷る要領で、発電層を基板の上に均一に描ける。従来の塗り方は材料の多くが無駄になりやすかった。印刷方式なら無駄を抑えられ、パターンの変更も簡単になる。
数百MWという数字は多いのか少ないのか
年間数百MWという規模は、大型の太陽光発電所数カ所分にあたる。ただし世界のシリコン系の生産量は年間数百GWの水準だ。つまりリコーの計画は、全体から見ればまだ小さい。
それでも意味があるのは、ペロブスカイトの市場がまだ立ち上がる前だからである。最初の数年は、価格の安さではなく「シリコンでは置けない場所に置ける」ことが価値になる。窓ガラスの脇、工場の波板屋根、積雪地の壁面などだ。この用途なら、数百MWでも国内の需要を十分に受け止められる。
原料のヨウ素が日本の強みになる
ペロブスカイトの主要原料のひとつはヨウ素である。日本は世界有数の生産国で、千葉県などを中心に国内で産出する。太陽電池の原料を自国で調達できる点は、シリコン系が中国に大きく依存してきた状況との対比で大きい。
今回のGX支援事業の狙いも、発電装置そのものだけでなく、材料から製造装置までの供給網を国内に持つことにある。印刷装置を自社で作れるリコーは、この点で他社にない立場にある。
量産の壁は、耐久性と歩留まりにある
課題も明確である。ペロブスカイトは水分や熱に弱く、長く使うと性能が落ちやすい。屋外で10年以上使えることを示せるかが、導入側の判断を左右する。
もうひとつは歩留まり(=作った製品のうち良品になる割合)である。実験室で高効率の小さな試作品を作ることと、大きなフィルムを安定して量産することは、別の難しさをもつ。印刷方式は大面積化に向いているが、欠陥が一つ入ると全体の出力が下がる。ここを工程管理で抑え込めるかが、2030年の目標達成を決めるだろう。
ビジネスへの影響
設置場所の制約が下がり、需要の裾野が広がる
軽くて曲がる太陽電池が量産に乗れば、これまで屋根の耐荷重が足りず見送られてきた物流倉庫や工場も対象になる。建物の改修費を抑えて自家発電を始められる企業は多い。電気料金の上昇に悩む製造業や小売業は、数年後の選択肢として今から情報を集めておく価値がある。
ただし現時点では価格も耐用年数も確定していない。導入判断は、実証事例の公開を待ちながら段階的に進めるのが現実的である。
供給側は、異業種からの参入が競争を変える
太陽電池の市場に、複合機メーカーという異業種が加わる意味は大きい。精密塗布や装置制御の技術をもつ企業は、電機や化学以外にも多い。素材、装置、検査の各分野で、新しい取引先が生まれるはずである。
部品や装置を扱う中小企業にとっては、東北に量産拠点ができることが商機になる。地域の雇用や関連産業の集積にもつながる。
今すぐ動く企業が確認しておくべき三つの点
検討を始める企業は、次の点を押さえたい。第一に、設置予定の建物の耐荷重と日照条件の把握だ。第二に、メーカー各社が示す発電効率と保証年数の比較だ。第三に、補助金の対象になる条件の確認だ。国の支援策は、導入側にも用意される可能性が高い。早めに情報を集めた企業ほど、有利な条件で参入できるだろう。